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「AIを入れると、どれくらい業務が効率化するのか」と聞かれることがよくあります。ただ、この質問に「この作業が何分短くなりました」と答えても、あまり役に立ちません。1つの作業が20分短くなっても、その20分が何にも使われていなければ、会社としては何も変わっていないからです。このコラムでは、私たちが自社の運用で実際に何が変わったのかを、時間の話ではなく業務そのものの変化として整理します。
「何分短くなったか」で見ると、効果はほとんど出ません
導入前に効果を試算するとき、多くの場合は作業時間の短縮で計算します。しかし実際に運用してみると、この見方では変化がほとんど捉えられません。
理由は2つあります。ひとつは、1回あたりの短縮が小さすぎることです。数分の差は日々の忙しさの中に埋もれ、「速くなった気がする」で終わります。
もうひとつは、短縮した時間の行き先を見ていないことです。空いた時間が別の価値ある仕事に回って初めて、事業としての効果になります。ここを追わないまま「削減時間」だけを数えても、実態とはずれていきます。
私たちが自社の運用で見るようにしたのは、次の問いです。以前はやっていなかった仕事が、できるようになったか。この見方に変えたところ、どこが本当に効いているのかがはっきりしました。
いちばん大きかったのは、諦めていた仕事ができるようになったことです
効果がもっとも大きかったのは、それまでコストが合わずに手をつけていなかった仕事が、現実的な選択肢になったことでした。
代表的なのが、動画や音声の文字起こしです。撮影した動画、配信、講座の録音——以前はこれらを文字にする作業自体が現実的ではありませんでした。外注すれば費用がかかり、自分でやれば何時間もかかるため、そもそもやらないという判断をしていました。
いまはすべて文字にして、キーワードで探せる状態にしています。変わったのは作業時間ではありません。「あの話、どの回でしたか」を探す行為そのものが成立するようになったという変化です。過去に自分が話した内容を、根拠として引けるようになりました。これは短縮ではなく、なかった機能が増えたということです。
記事や投稿の下書きも同じ構造です。効いているのは執筆が速くなったことではなく、書き出しで止まる時間がなくなったことでした。以前は「書かなければ」と思いながら着手できずに数日過ぎることがありましたが、下書きがある状態から始められるため、止まらなくなりました。結果として、以前は出せなかった本数が出せています。
次に効いたのは、人が画面に張り付く工程が消えたことです
もうひとつ変化が大きかったのは、人が目で追い続けていた作業です。
苔の販売はネットショップで受けているため、注文が入ると発送作業が発生します。以前は表計算ソフトを開いて、まだ発送していないものを目視で拾い、同梱できる注文や送付先の変更を確認していました。この作業は集中力を要求するわりに、何も生み出しません。
いまは注文データから作業リストが自動で出るようにしています。ここでの変化も「速くなった」ではありません。人が画面を追いかける必要がなくなり、その時間が発送準備そのものや、お客様への連絡に回ったという変化です。
こうした工程は、どの会社にも必ずあります。突き合わせ、仕分け、転記——正解が決まっていて、人がやっても価値が増えない作業です。ここが空くと、空いた時間の行き先がはっきりしているぶん、効果を実感しやすくなります。
ただし、ここには落とし穴もあります。空いた時間は、放っておくと別の雑務で埋まります。「楽になったはずなのに、忙しさが変わらない」という感想が出るときは、たいていこれが起きています。工程を1つ自動にしたら、そこで浮いた時間を何に使うかを先に決めておいてください。決めていないと、効果があったことすら分からなくなります。
名前のついていない細かな手作業も、まとめて任せられます
ここまでに挙げた工程のほかに、もうひとつ見落とされやすい領域があります。業務として名前がついていない、細かな手作業です。
たとえば、撮影した写真のファイル名です。スマホやカメラから取り込んだままだと「IMG_4821」のような名前が並び、あとで探せません。かといって、何十枚もの写真に「どの業務で使う素材か」が分かる名前を1枚ずつ付け直すのは、誰の担当でもない面倒な作業です。いまはこれを、写真の中身を見せて用途ごとのファイル名へ一気に変換させる形で片づけています。
この種の作業は、1つひとつは数分で終わるため、効率化の対象として意識されません。しかし細かな面倒が積み重なると、認知的な疲労として効いてきます。「あれもやらなきゃ」が頭の隅に溜まっている状態は、目の前の仕事の質を静かに下げます。
細かな手作業をまとめてAIに渡すと、時間の節約以上に、頭の中が軽くなるという変化が起きます。1件ずつは小さくても、この積み重ねが全体の業務効率に効いてくる、というのが実際に運用してみての実感です。
さらに先があります——外注していた規模のシステムを、自社で組めるようになりました
ここまでは日々の作業の話でしたが、AIの業務効率化はもう一段大きな規模でも起きています。ちょっとした業務システムの構築です。
以前なら、注文管理や定期作業の自動化といった「自社専用の仕組み」を作ろうとすると、開発会社への外注しかありませんでした。小さなシステムでも見積もりは百万円単位になることが珍しくなく、費用に見合うか判断がつかないまま、結局は手作業を続ける——という会社が多かったはずです。私たちも同じでした。
いまは、その規模の仕組みをAIに手伝わせながら自社で、1週間ほどで組めるようになっています。実際に私たちが自分たちで作って動かしているのは、たとえばこういうものです。
注文データから発送の作業リストを自動で出す仕組み——毎日人が表計算ソフトで拾っていた確認作業が、システム側の仕事になりました
メールの作成・送信・返信の仕分けを回す仕組み——毎月・毎週の定期的な作業として人が抱えていた部分を、自動で動く形にしています
録画・録音を文字にして検索できる状態で溜める仕組み——一度作ってからは、素材を入れるだけで勝手に積み上がります
どれも、外注していたら個別の見積もりになっていた類のものです。「作業をAIに手伝ってもらう」のと「仕組みそのものをAIと一緒に作る」のとでは、効率化の桁が変わります。前者は1回ごとの時間を削り、後者はその作業自体を人の仕事から外します。
ただし、順番は守ってください。最初からシステムを作ろうとすると、たいてい失敗します。まず日々の作業でAIに慣れ、どこが毎回同じ形で発生しているかが見えてから、その部分を仕組みに固める——この順番だと、作ったものが実際に使われます。
こうして並べてみると、ファイル名の付け直しのような細かな手作業から、外注していた規模のシステムまで、AIに任せられる仕事は見返すと結構あります。「この業務はAIで代用できないか」という目で、いちど自社の仕事を眺め直してみるのも面白いはずです。
逆に、任せても変わらなかったところ
一方で、期待したほど変わらなかった領域もあります。ここは正直に書いておきます。
お客様や取引先へのメール文面は、その代表です。定型的な返信なら下書きが役に立ちますが、これまでのやり取りの経緯や相手との距離感を踏まえた言い回しが必要な場合は、結局ほとんど書き直すことになります。
企画や案出しの「選ぶ」部分も同じです。案を並べること自体は任せられますが、どれが自社に合うかを決める作業は残ります。ここは人が一つずつ検討する必要があります。
ただ、この2つは効率化できなかったのではなく、効率化してはいけない場所だと考えるようになりました。相手との関係が絡む判断を機械的に処理すると、短期的には速くても、失うもののほうが大きくなります。時間が減らないことを問題として扱わず、人が担当すべき仕事として線を引いたほうが、全体の設計はうまくいきます。
効果を測るなら、時間ではなくこの3つを見ます
ここまでを踏まえて、私たちが効果を判断するときに見ているのは次の3つです。
以前はやらなかった仕事が、動き始めたか——コストや手間が理由で諦めていたものが、選択肢に戻ったかどうかを見ます
人が張り付いていた時間が、別の仕事に移ったか——空いただけで終わっていないか、行き先まで確認します
止まっていた工程が、続くようになったか——発信や記録のように「続けられずに止まる」種類の仕事が、動き続けているかを見ます
3つ目は見落とされがちですが、実務では大きい部分です。発信も記録も、やめても今日は困らないため、忙しい時期から順に止まります。止まると再開に体力が要るので、そのまま消えていきます。続く状態を保てること自体が成果だと考えたほうが、判断を誤りません。
この3つはどれも、ストップウォッチでは測れません。しかし事業として何が変わったかは、こちらのほうがはっきり表れます。
自分の会社で、変わりそうな場所を見つける手順
自社に当てはめて探すときは、次の順番が実用的です。
人が画面を見ながら確認している工程を書き出します——突き合わせ、仕分け、転記など、正解が決まっている作業を探します
「やったほうがいいと分かっているのに、やれていない仕事」を書き出します——時間や費用が理由で諦めているものほど、変化が大きくなります
どちらか1つを選び、1か月続けます——1回試して速いかどうかを見るのではなく、続けた結果として何が変わったかを見ます
空いた時間の行き先を決めておきます——先に決めておかないと、別の雑務で埋まって終わります
一度に複数を動かすと、どれが効いたのか分からなくなります。1つずつ、続けた結果で判断するほうが確実です。私たちが自社で回している仕組みの一覧はAI業務効率化の実例のコラムに、ツールの選び方はAI業務効率化ツールの選び方のコラムにまとめています。
まとめ——効果は「短縮した時間」ではなく「変わった業務」で見ます
AI業務効率化の効果は、作業が何分速くなったかでは捉えきれません。
時間の短縮では測りません——1回数分の差は忙しさに埋もれ、行き先を追わないと事業の変化になりません
諦めていた仕事が動き出したかを見ます——文字起こしのように、以前はコストが合わずやらなかったことが選択肢に戻ります
人が張り付く工程が消えたかを見ます——目視の突き合わせや仕分けは、空いた時間の行き先がはっきりしています
名前のない細かな手作業も対象です——ファイル名の付け直しのような数分の面倒も、まとめて任せると頭の中が軽くなり、全体の効率に効いてきます
仕組みごと作る選択肢があります——外注で百万円単位だった規模の業務システムも、AIと一緒なら自社で組める時代になっています。日々の作業に慣れてから、繰り返しの部分を固めます
人が担当すべき仕事には線を引きます——相手との関係が絡む判断は、効率化しないほうが結果的にうまくいきます
自社のどこが変わりそうかは、いまの業務を一緒に棚卸ししてみるのがいちばん早い方法です。進め方から相談したい場合はAI導入・業務効率化支援もご覧ください。
よくあるご質問
「何時間削減できました」という数字は出せないのでしょうか。
作業単位でなら出せますが、その数字は経営の判断にあまり使えません。1つの作業が20分短くなっても、空いた20分が別の価値ある仕事に回っていなければ、会社としては何も変わっていないからです。見るべきは、その時間で何ができるようになったかです。私たちの場合、空いた時間は「これまで手が回らず諦めていた仕事」に回りました。削減時間そのものより、そちらのほうが事業への影響がはるかに大きくなっています。
うちは人手が足りません。AIを入れれば人を減らせますか。
人を減らす道具として考えると、たいてい期待外れになります。実際に起きるのは、同じ人数のまま扱える仕事の量と種類が増えることです。判断や、お客様との関係が絡む部分は人に残るので、そこは減りません。人手不足への効き方としては、「採用しなくても回るようになる」より「いま雇っている人が、単純作業から本来の仕事へ移れる」と考えたほうが現実に近くなります。
最初にどの業務から手をつければいいですか。
2つの角度から探してください。1つは、人が画面に張り付いて目で確認している工程です。突き合わせや仕分けのように、正解が決まっていて機械的な作業が該当します。もう1つは、価値はあると分かっているのに手が回らず諦めている仕事です。後者のほうが変化は大きくなります。逆に、相手との関係や好みの判断が絡む仕事から始めると、直しに時間がかかって効果を感じにくくなります。
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